2 術後の合併症への対応
①肺動脈弁閉鎖不全

 肺動脈弁置換術の主な目的は,生命予後とQOLの改善である.肺動脈弁閉鎖不全により右室拡張が進行すると容量負荷が過大となり収縮不全が生じる.小児期は無症状で経過することが多いが,成人期には運動耐容能の低下や心不全,不整脈などが出現し,死亡に至ることもある.

 現時点における肺動脈弁閉鎖不全に対する肺動脈弁置換術の適応は,重度の肺動脈逆流があり,かつ以下のいずれかの項目を認める場合と考えられる.すなわち,
右心不全症状や運動耐容能の低下(クラスI,レベルB),中等度以上の右室拡張や右室機能不全(クラスⅡ a,レベルB),進行性で有症状の心房または心室不整脈がある(クラスⅡ a,レベルC).肺動脈弁置換術の至適時期については様々な意見があり,未だ統一的見解は得られていない.

②右室流出路狭窄

 心内修復後に重度の残存狭窄がみられる症例では,右室収縮期圧が左室の70%を超えるか,右室流出路の圧較差が50~ 60mmHg以上あれば,外科手術やカテーテルインターベンションによる狭窄解除が推奨される(クラスⅡ a,レベルC).

 片側性の末梢肺動脈狭窄は,肺血流シンチによる患/健側肺血流比が0.4未満であればバルーンまたはステントを使用したカテーテルインターベンションを検討する(クラスⅡb,レベルC).

③不整脈

 心内修復術後例の突然死は年間1,000人当たり1.5人との報告があり,突然死と関係のある心室性不整脈が相当認められる(レベルB).突然死を一つの指標で予想することは困難であるが,中程度以上の左室機能不全または右室機能不全があり,かつ心室不整脈がある場合は,抗不整脈薬の投与,電気生理学的検査,カテーテルアブレーションなどを検討すべきである(クラスⅡ a,レベルB).特に持続性心室頻拍や心停止が確認された例ではICDを考慮する必要がある(クラスⅡ a,レベルB).

④大動脈弁閉鎖不全

 ファロー四徴(TOF)患者は,術前術後を通じて大動脈弁輪径が一般に大きく,高齢なるにしたがって,大動脈弁閉鎖不全の合併が増加すると云われる.心内修復術後における大動脈弁置換術の明確な基準はないが,通常の大動脈弁閉鎖不全に対するガイドラインなどを参照して検討すべきである.

⑤感染性心内膜炎

 TOF術後は,内皮で覆われない人工膜や人工物を使用している場合があり,肺動脈弁閉鎖不全,右室流出路狭窄,残存心室中隔欠損などの合併によって,感染性心内膜炎のガイドラインで高いリスクがあるとされている病状にあてはまる患者が多く,この場合は一部の歯科処置などに対して抗菌薬の内服や静注が推奨される(「総論7感染性心内膜炎」の項を参照のこと).
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Ⅱ 各論 > 1 ファロー四徴 > 2 術後の合併症への対応
 
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン
(2012年改訂版)

Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)
【ダイジェスト版】