2 術後の再侵襲的治療
①左側房室弁閉鎖不全

 外科治療を要する遠隔期合併症のなかで,最も頻度が高いのが左側房室弁閉鎖不全である.近年では心内修復の際に左側房室弁の裂隙を閉鎖するのが一般的であるが,術前から中等度以上の逆流を来たす症例において遠隔期に左側房室弁逆流が重症化し再手術を行う場合がある.また手術直後から中等度以上の逆流を認める症例があり,これらの症例では比較的近接期に再手術を必要とすることがある.左側房室弁閉鎖不全に対する手術時期は,成人期であれば後天性心疾患における僧帽弁閉鎖不全の手術適応時期を参考にする(クラスⅡ a,レベルC).小児期の手術時期に関しては明確な基準は無い.

 手術方法には,弁形成と弁置換の2種類がある.体の成長に伴いpatient-prosthesis mismatchを生じることが危惧される学童期までの症例,あるいは出産を希望する女性においては,可能な限り弁置換術までのpalliationとして弁形成が試みられる.しかし,後天性心疾患における僧帽弁閉鎖不全と異なり,生来異常な形態である左側房室弁形成の成績は不良である.

 弁置換術では,その耐容性を考慮して通常機械弁を用いることが多い(クラスⅡ a,レベルC).房室中隔欠損に対する左側房室弁形成術を試みた症例では,後の弁置換での予後は不良であるとの報告がある.また,低年齢での弁置換の手術リスクは決して低くなく,さらにpatient-prosthesis mismatchに伴う再弁置換は少なくない.

②左室流出路狭窄(大動脈弁下狭窄)

 房室弁のscooped outにより生じる左室apex to outflowの延長は,形態的な左室流出路狭窄を形成するが,心内修復術後に進行するものを含めて,線維組織の肥厚や円錐中隔の筋性肥厚を合わせた左室流出路狭窄は5%前後に認める.通常大動脈弁は正常であるため,外科的狭窄解除は円錐中隔部の肥厚した線維組織や心筋を切除するだけで効果的な場合もあるが,再発も多く認める.流出路全体の狭窄を呈する場合には,中隔の切開と同部へのパッチ補填(modified Konno procedure)(クラスⅡa,レベルC)や,心尖―大動脈導管術が適応となる.
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先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン
(2012年改訂版)

Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)
【ダイジェスト版】