1 術後合併症への対応
①不整脈 1)発生頻度 Fontan術後遠隔期に発生する不整脈としては,心房粗細動,上室頻拍などの上室頻拍性不整脈と洞機能不全による徐脈性不整脈の頻度が高く,重篤な心不全や突然死の原因となる.上室頻拍性不整脈の発生頻度は10~ 45%で,経年的に高頻度になり,術式別には大静脈肺動脈連結法(TCPC)に比べ心房肺動脈連結法(APC)が高率である.洞機能不全の発生頻度は13~ 16%で,術後遠隔期にはその頻度は増加する.2)診断と再インターベンションの適応 詳細な電気生理学的検査(EPS)を行い,リエントリー,異常自動能の鑑別を行う.心房内マクロリエントリー性頻脈(IART)の頻度が高い.難治性心房頻拍および心房粗細動症例,心房拡大,心房負荷に伴ういわゆるfailed Fontan症例で臨床症状があるものでは再インターベンションの適応となる.3)術式選択と予後 カテーテルによる高周波アブレーション単独治療は,急性期には50~ 70%の有効性があるが,術後6 か月で50%に再発が見 られると報告されている. 外科的アプローチとしては,心房負荷軽減のためFontan revision( TCPC conversion)が行われ,心房拡大が著しい場合には心房壁切除術が併用される.不整脈外科治療として,術中冷凍凝固法または高周波法,maze手術が同時に行われる必要がある(クラスIIa,レベルC).術後洞機能不全に対してはペースメーカ植え込みを検討する(クラスIIa,レベルC).②蛋白漏出性腸症(PLE) 1)発生頻度 Fontan術後のPLEは4~ 13%に発生するとされ,発症時期は様々である.PLE診断後の予後は不良であり,診断後に50%は5年以内に死亡し,80%は10年以内に死亡するとされる.Plastic bronchitisは肺におけるPLE類似の病態と考えられ,急激かつ重篤な呼吸不全をきたし,発症後の5年生存率は50%とする報告もある.2)診断と再インターベンション適応 PLEの確定診断は便中のα 1アンチトリプシンクリアランス試験による.発症が確認されたら詳細な血行動態の検討を行い,Fontan循環における連結路狭窄病変,心室機能不全,房室弁逆流および体肺副血行を評価する.ステロイド療法,ヘパリン療法, 体肺副血行のコイル塞栓などの内科的治療が無効なものでは,全身状態が悪化する前に再侵襲的治療を検討する.3)術式選択と予後 外科的アプローチとしては合併残存病変に対する修復手術,外科的あるいは経カテーテル法によるFontan 開窓,Fontan revision,ペースメーカ植込みなどが試みられているが,難治性であり無効例も多い.他の治療法に抵抗性のPLEは,心移植の適応になる可能性がある.③血栓塞栓症 Fontan術後の血栓塞栓症は3~ 20%に発生するとされ,その発症時期は術後急性期から遠隔期まで様々である.血栓塞栓症の予防法としてはアスピリンによる抗血小板療法やワルファリンによる抗凝固療法が行われている.心房内短絡,心房内血栓,心房頻拍あるいは血栓塞栓症の既往がる場合には,ワルファリンの投与を検討する(クラスI,レベルC).④低酸素血症 Fontan術後の低酸素血症は,baffle leak,体心房への側副静脈路の形成,肺動静脈瘻形成により発生する.側副静脈路はカテーテル治療あるいは外科的アプローチにて閉鎖する.肺動静脈瘻は,進行性の低酸素血症を来たす予後不良の合併症である.その成因として下大静脈血流が一側肺動脈に偏って還流することが示唆されている,肝静脈血が左右肺動脈に均等に潅流されるように下大静脈血流連結路を再吻合する術式や心移植により低酸素血症が改善したとする報告もあるが,難治性であり無効例も多い.⑤心室機能不全 Fontan術後遠隔期の心室機能不全は比較的高頻度に発生し,その原因は多岐にわたる.心室形態別には右室性単心室で心室機能不全の発生頻度が高い.内科的薬物療法としてはACE阻害薬と利尿薬などの投与を検討する(クラスIIb,レベルC).侵襲的治療法として,心室ペーシングや多部位ペーシングによる心室再同期療法の有効性が報告されている.
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン (2012年改訂版) Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)
【ダイジェスト版】